第一回 内子 篇
愛媛県は東西に細長い。東予、中予、南予と呼ばれる地域に分かれ、それぞれ人々の気質や話す言葉も違うというから面白い。東予も中予も魅力的だが、私は特に南予がお気に入りだ。
美しい伊予灘が眼前に広がる「下灘駅」や、日本一細長い半島の「佐田岬半島」、長い歴史を持つ宇和島の「闘牛」。地元産の新鮮な鯛の刺身を使う「宇和島鯛めし」や魚と味噌の味がクセになる「さつま汁」など南予のグルメもハズレがない。
四国一周サイクリングのとき、南予で印象に残ったのは、レトロな雰囲気に包まれた内子町だった。江戸時代以来、和紙と木蝋(和ろうそく)の生産で栄えた土地で、約600m続く大通りでは、白漆喰と黄土のコントラストが美しい屋敷や町屋が続く。古い建物が資料館やカフェ、雑貨店など素敵な店にリノベされ、なんども自転車から降りて店の中を覗いた。
大正時代に建てられた芝居小屋・内子座もある。かわいい木造の劇場に、役者業の私はぐっと惹かれた。狂言や文楽などを上演しているらしい。いつか演目も見てみたい。
ランドセルを背負った下校途中の小学生たちに出くわした。歴史ある町の風景に黄色い帽子姿が溶け込んでいた。自転車に乗る私に向かって、彼らから元気な声で「こんにちは!」。南予の優しさがじんわり伝わってきた。
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